高橋光臣のトレンド入りが運んだ、根拠なき自信の記録
夜21時30分、リビングに父がスマートフォンを掲げて立った。
Yahoo!リアルタイム検索の画面には『高橋光臣』がトレンド入りしていた。
父は自信満々の声で豆知識を垂れ流し始めた。
「俺に任せろ、このドラマ、絶対ブレイクすると思うんだよ。
高橋光臣は今、来ているんだ。
記事によるとな、新しいドラマ企画が発表されたらしい。
こういう時期が大事なんだ」
父は通販カタログをめくる手を止め、スマートフォンの画面を何度もスクロールしながら講釈を続けた。
吾輩は高い段ボール箱の上から、その光景を冷静に記録していた。
母は台所から現れて、ソファに座った。
母の口が開いた。
「そうなると思っていました。
その記事、実は去年の情報です。
あと、高橋光臣の新作はすでに放映中ですね」
父の表情が変わった。
言い訳の準備に入ったのが、吾輩には見て取れた。
その時、長女がスマートフォンを片手に現れた。
「父さん、SNS上でこの話題、もう旬を過ぎてますけど。
投稿数で見ると、三日前の記事なんですよ。
なんで今更?」
父は「いや、その、ネットニュースの配信が遅れていただけで」と言い訳を重ねた。
長男はタブレットに目を落とし、独白するように話した。
「俳優の演技も記録しておく。
データ化すれば分析できる」
吾輩はこの時点で、テーブルに置かれたコーンビーフの空き缶に目を向けた。
昼間に食べたあれだ。
空の食器ほど、吾輩の気分を損なわせるものはない。
人間たちの根拠なき議論など、どうでもよかった。
父はまだ言い訳を続けている。
母は淡々と毒舌を放っている。
吾輩は無言で、その缶を視界に留めたまま、気高く場を後にした。
人間とは不思議な生き物だ。
流行に左右され、根拠なく自信を持つ。
しかし空の食器の重要性には気づかない。

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