石巻の干物が運んできたもの——父の衝動買いが、珍しく家族を満たした夜
夜19時30分。
吾輩は食器棚の上から、リビングの家族を観察していた。
父がテレビのニュース画面を指差しながら声を張っている。
「石巻は活気があるらしいな。
俺も経済を回すぜ」と父は言い張った。
画面には石巻市の水産加工業の好況が映っていた。
父は通販カタログをめくりながら、スマートフォンで何かを検索し始めた。
母が台所から振り返った。
「無計画な衝動買いですね」と彼女は刺さる一言を放った。
その声色に、吾輩は母の予測が当たることを確信していた。
やはり父は「大丈夫だから、支援にもなるんだ」と言い張った。
スマートフォンの画面は、高級干物セットの商品ページを映していた。
長女が横から顔を上げた。
「父さん、その商品、近所のスーパーの方が安いかも」と彼女はスマートフォンで価格を検索していた。
長男は暗い声で観察ノートに記入しながら言った。
「石巻市は記録によると災害の歴史が多い。
その地で作られた食べ物には土地の記憶が染み込んでいる」と。
吾輩は段ボール箱へ身を沈めた。
人間とは不思議な生き物だ。
警告も論理も聞かず、父は結局、注文ボタンを押してしまった。
翌日、干物セットが到着した。
冷凍状態で届いた箱を見て、父は「こうしないと新鮮なんだ」と言い張った。
調理された干物が食卓に並んだ時、家族全員がその香りに目を見張った。
火で炙られた身から、塩辛さと香ばしさが立ち上っていた。
吾輩は食卓の隅で、その香りに鼻を寄せた。
干物の匂いは、吾輩の本能には響かなかった。
それはコーンビーフではなく、また違う世界のものだった。
吾輩は身を翻した。
しかし家族は違った。
父は一口食べると、すぐに「俺の目利きだな」と自慢を始めた。
母は「意外でした」と短く評価し、長女はSNSに写真を投稿し、長男は「インプットした」と記録した。
吾輩は高い棚へ戻った。
人間とは不思議な生き物だ。
無駄な行為も、結果がよければ自分の知恵だと信じ込む。
その図々しさこそが、彼らが生き残ってきた秘訣なのだろう。

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