Netflixの古い情報が映す家族の構図——8月26日夜21時のリビング
夜21時、リビングのテレビからニュース番組の音声が流れていた。
夫がスマートフォンを握りながら立ち上がった。
「Netflixの新作ドラマがトレンドに上がってるぞ。
俺に任せろ、最新ドラマの情報なら俺が詳しい」と声を張る。
自信満々の表情。
いつもの夫だ。
私はソファに座ったまま、その光景を観察していた。
夫は家族を集めるようにリモコンをテレビに向け、Netflixの説明を始めた。
「このアプリは、な、カテゴリー別に作品が分類されていてだな。
サーバーのシステムが——」
娘がスマートフォンの画面を見上げながら口を挟んだ。
「父さん、それ去年の情報だし。
今はこのランキングが流行ってるんですけど」と、冷たく指摘する。
夫の表情が一瞬凍りついた。
「いや、そもそも俺の説明が基礎だから。
まあ、な、最新情報って言うのは日々変わるから——」と言い訳を探り始める。
その瞬間、夫がリモコンを強く握ったのだ。
テレビの画面が急に真っ黒になった。
息子がタブレットに視線を落としたまま呟いた。
「このテレビの不具合、記録しておく。
暗い画面は何か意味がある」と、いつもの調子で分析を始めている。
私は立ち上がり、キッチンへ向かった。
夫への対応方法は、もう決まっていた。
冷蔵庫から杏仁豆腐を取り出し、四つの器に配る。
私の予測は正確だ。
夫は失敗を指摘されると、その後の家族会議は混乱する。
だから先制する。
リビングに戻ると、私は夫の前に杏仁豆腐を置いた。
「そうなると思っていました」と呟く。
夫のテレビ操作に失敗した原因は、私には既に見えていた。
ただ、それを口にする必要はない。
この家では、私の予測の正確さだけが、均衡を保つための唯一の武器なのだ。
夫は杏仁豆腐をスプーンですくいながら、小さく笑った。
その表情を見ながら、私は今夜のNetflix鑑賞が延期になったことへの静かな諦観を感じていた。

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