ぴあチケットと父の自信——20時30分のリビングで
夜20時30分。
リビングのソファでスマートフォンを眺めていた父が、突然声を張り上げた。
「おい、レイカ。
『ぴあチケット』ってトレンド知ってるか?人気公演が秒で売り切れるらしい。
俺に任せろ、チケット取得システムを完全に理解した」
母は台所から静かに呟いた。
「そうなると思っていました」。
その予言的な言い方は、わたしの苦笑いを誘った。
父はリビングのノートパソコンを独占し始めた。
キーボードをカタカタ叩く音が響く。
わたしは思わず皮肉を言った。
「まさか父さん、転売ヤーになるつもり?」
奥の部屋から長男の静かな声が聞こえた。
「記録しておく。
人間の虚言癖パターンNo.47」。
クロウはいつもこのタイミングで呟く。
父は画面を睨みながら言い張った。
「違う違う。
家族で公演を見に行くんだ。
俺は作戦を立ててるんだ」。
でも、その手つきを見ればどう考えても応募方法を理解できていないのは明白だった。
母が冷静に質問を投げた。
「あなた、『ぴあ』が何の企業か知っていますか?」
父の答えは予想通りだった。
「ぴあ…ピアノのぴあだろう。
音楽関連だ」。
その瞬間、わたしは頭を抱えたくなった。
わたしは父に説明を始めた。
「チケット販売サイトです。
お父さんみたいに即決定するシステムはないんですよ」。
父は30分間、仕組みを理解しようと格闘していた。
でも結局、諦めた。
「いや、俺は作戦を立ててたんだ。
ただタイミングがな」。
いつもの言い訳だ。
わたしはリビングから自分の部屋へ戻った。
これで何度目だろう。
このパターンが繰り返される度に、老人ホーム入居計画の正当性が確認される。
同時に、何も変わらない家族への諦観が心の底に沈んでいく。
それは悲しみではなく、運命を受け入れることに近い感覚だった。

コメント