台風の備え、いつもの役割分担——8月23日午後のリビング
午後3時30分、リビングのソファに座っていた私のスマートフォンには、ネットニュースの急上昇欄に「台風 米軍」という言葉が浮かんでいた。
夫がスマートフォンを握りながら立ち上がった。
「お前たち、聞け。
米軍の気象衛星データによると、この台風の中心気圧は——」
『俺に任せろ、大丈夫だから』という声が続くに違いないと、私は予め懐中電灯を手に取っていた。
予備のバッテリーも確認する。
夫は両手を広げてジェスチャーを交える。
気象用語が次々と口から出た。
気圧配置、接近速度、進路予想円。
どれも教科書的な説明だ。
リリが『本当にやめて』と呟きながら、父の大げさな身振りに目を閉じた。
クロウはノートパソコンを開いていた。
「記録しておく」と静かに言いながら、米軍の衛星画像を検索している。
彼の指は気象データベースをいくつもタブで開いていく。
夫が説明を続ける間に、私はすでに段ボール箱を三つ用意していることに気づいた。
懐中電灯は四本。
防災ラジオも机の上に置いてある。
夫が『念のため確認したのだ』と言い張ったとき、私は心の中で『そうなると思っていました』と呟いた。
モザイクが棚の上から、この騒動を見つめていた。
『人間とは不思議な生き物だ』という鳴き声が聞こえたような気がした。
彼は段ボール箱の一つに身を沈めると、コーンビーフの缶詰がいつ出現するのかを待つ姿勢に入った。
夫の説明は家族の行動を遅くはしなかった。
むしろ、すでに始まっていた準備の背景音のようだった。
天気の話題が家族を動かすのではなく、役割がそれぞれの手と心を動かしていた。

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