父の言い訳生成装置——岐阜県大野町が招いた家族会議の記録
夜19時30分、リビングに父が立ち上がった。
スマートフォンの画面を掲げながら、父は声を張った。
「大野町がトレンドに上がってるぞ。
俺に任せろ、この町には隠れた掘り出し物があるんだ」。
根拠のない自信が父の顔を支配していた。
僕はタブレットに目を落とし、その言葉を記録する準備をした。
母は杏仁豆腐をスプーンですくい始めた。
「そうなると思っていました。
また衝動買いの予兆ですね」と、刺すような笑みを浮かべて呟く。
母の予測精度は、統計的に見ても驚異的だ。
リリはスマートフォンで大野町のトレンド検索を始めた。
数秒後、彼女の眉が寄った。
「父さんの言う話、何もヒットしないんだけど。
本当にやめて」と、言葉にとげを含ませる。
父の主張と現実の乖離を指摘する、いつもの流れだ。
僕はタブレットの通販サイトを開いていた。
すると、大野町産の工具セットが目に入った。
高級工具の組み合わせ。
「この町の工具は記録に値する」と、僕は呟いた。
父は即座に反応した。
「ほら見ろ、やっぱり何か隠れた価値があるんだ」と、購入ボタンに手を伸ばす。
その指先は確実に迷いなく動いていた。
母が声を上げた。
「その理論で何度失敗されているか記録していますが」。
父は言葉を失ったが、すぐに新しい言い訳を生み出した。
「情報収集の為に大野町について本を注文する。
これは投資だ」と。
工具セットではなく、本に変更するその速度は、まるで計算済みの決定のようだった。
母は杏仁豆腐を食べ終わると、機嫌良く頷いた。
父は購入ボタンをタップし、本の注文を進める。
リリは溜め息をついた。
僕はノートに記した。
父の衝動パターン、言い訳生成の流れ、家族の対応パターン。
日常こそが最高の記録対象だと、改めて確信する。
明日、この本が届くまでの時間も、観察する価値がある。

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