面白さの強調が家族を巻き込んだ夜——父の逆効果現象と猫の介入
夜20時30分。
リリがスマートフォンを掲げた。
急上昇話題に「面白いと思ってやってるならやめて欲しい」という投稿が並んでいる。
「ねえ、この投稿見て。
みんな『面白いと思ってやってるならやめて』って言ってるんだけど」
俺は瞬時にスマートフォンを奪い取った。
何度も読み直す。
面白さについての議論だ。
「面白いことが何か悪いのか?俺が教えてやろう」
俺は立ち上がり、リビングで同じジェスチャーを繰り返し始めた。
大げさな身振り、オーバーアクション。
面白さとは何かを体で示す。
逆に強調するんだ。
これが正解だと確信していた。
クロウが観察ノートに書き込んでいる。
「記録しておく。
父の行動パターンは典型的な逆効果現象だ」と呟きながら。
レイカは台所からコーンビーフの缶を取り出した。
モザイクに与えながら、リビングの俺を静かに眺めている。
「そうなると思っていました」と妻が言った。
リリの声が悲鳴に変わった。
「本当にやめて。
これ家族グループに流れたら終わり。
終わり。
終わりなんだけど」
俺の動きがますますエスカレートする。
より大げさに。
より面白く。
家族に面白いと思わせたい一心だった。
だが、それは伝わらない。
むしろ反発を呼ぶだけだ。
その瞬間、モザイクが俺の顔に飛び乗った。
俺は転倒した。
リモコンが飛び散り、テレビが自動販売機のCM放送に切り替わる。
画面には缶コーヒーが映っていた。
「もう無理。
老人ホームの資料、明日見よう」とリリが呟いた。
クロウは記録を続けている。
「この一連の出来事は家族力学の負の連鎖である」
俺は床から身を起こす。
痛みよりも、別の感覚が胸に広がっていた。
「コーンビーフの奴が邪魔したんだ。
計画通りだった」
そう言い張った。
しかし、心の中では別のことを考えていた。
面白いと思われたい。
ただそれだけだった。
その想いが、どうして家族には伝わらないのか。
その微かな絶望が、俺の中に沈んでいった。

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