朝食の皿—家族の視線が集中したその瞬間
7月29日、朝8時。
吾輩は台所の高い棚の上から、朝食風景を観察していた。
いつもと変わらない。
父親は新聞を広げ、母親は卵焼きを焼いている。
リリ嬢はスマートフォンに目を落とし、クロウ坊は黙々とご飯を食べている。
だが、ここまでは前置きである。
問題は、テーブルの隅に置かれた一皿の魚だった。
父親が通販で注文した、高級干物セットだ。
吾輩は先日、この香りを嗅いだ。
記憶に残る匂い。
コーンビーフよりは劣るが、決して悪くはない品質である。
「今日から毎朝、この干物を食べるぞ」と父親は前夜に述べていた。
「栄養満点。
しかも健康的」と、うんちく大好き人間らしく付け加えていた。
ところが、朝食の時間になると、異変が起きた。
母親が小さく声を上げたのだ。
「あ。
そうなると思っていました」
吾輩は瞬時に視線を下ろした。
その干物は、虫がついていた。
小さな黒い点が、干物の表面に数匹。
梅雨時の通販品。
必然だ。
父親の顔が蒼白になったのが見えた。
「え、これは…。
いや、これは製造段階での混入だ。
保存環境の問題では…」
口からは言い訳が次々と溢れた。
リリ嬢は声を上げた。
「本当にやめて。
朝から気持ち悪い」
クロウ坊はノートに何かを記録し始めた。
「虫の種類…。
記録しておく」
父親の完璧な計画は、小さな虫によって砕かれた。
吾輩は高い棚から、この光景をさらに観察することにした。
人間とは不思議な生き物だ。
特に、この家族は。

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