16七五三掛kitchen——父の自信が鶏肉を壊すまで
夜20時30分、リビングのテーブルにスマートフォンが置かれていた。
リリが画面を掲げて家族グループチャットに動画を送ったのだ。
SNSで急上昇している「16七五三掛kitchen」という調理技法らしい。
和食の包丁さばきを数字で示す方法だという情報が流れてきた。
僕は「16という数字の意味が重要だ」と呟きながら、観察ノートにその情報をインプットし始めた。
父が即座に反応した。
「これだな。
俺に任せろ。
包丁の角度と切り方の組み合わせか。
俺はこういう豆知識が得意だ」と父は自信満々に宣言した。
テーブルの上には既に鶏肉の切り身が置かれている。
父は通販で購入した七五三の飾り包丁を手に取った。
母がすぐに台所から顔を出した。
「その包丁は装飾用です。
やめておきなさい」と母は淡々と制止した。
だが父は聞かなかった。
「大丈夫だから。
これくらい俺にできる」と言い張り、鶏肉に向かって包丁を構えた。
父の持ち方は既におかしい。
刃を寝かせるべき角度が90度近く立っている。
僕は観察ノートのペンを握った。
「これは失敗する。
記録しておく」と心の中で呟いた。
包丁は鶏肉に入った。
だが切り裂くのではなく、ぶつかった。
父は何度も同じ動作を繰り返した。
結果、鶏肉はぼろぼろになった。
母は台所から再び現れた。
「そうなると思っていました」と、予想通りの出来事を冷たく述べた。
その時、台所に黒い影が現れた。
モザイクだ。
落ちた鶏肉を察知した吾輩が狙いを定めている。
父の失敗した切り身はほぼ全部、モザイクの口に消えた。
僕は観察ノートに記録を追加した。
「父の無知が確認された。
16という数字の意味は解明されなかったが、父の誤った自信がもたらす結果は極めて明瞭である」と。
リリは「本当にやめて」と呟きながら、スマートフォンの画面を見つめ直していた。

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