9ブラックスパークレンス——父の自信が家族の沈黙を招いた夜
夜間20時30分、リビングのソファに私は座っていた。
杏仁豆腐のスプーンを口に運びながら、スマートフォンの画面を眺めていた時のことだ。
ゴウが身を乗り出した。
「おい、見ろ。
Yahoo!リアルタイム検索に『9ブラックスパークレンス』が急上昇してるぞ」と、片手にスマートフォンを握ったまま宣言する。
「俺に任せろ、大丈夫だから。
複雑な話題だが、俺が調べてやる」と言い張った。
その瞬間、私は予感した。
また同じパターンだ、と。
ゴウの得意げな声色は、いつも説明の放棄の前触れだ。
「つまりそれは……」と私が分析を始める前に、リリが割り込んだ。
「本当にやめて、父さんのうんちく始まった」と、スマートフォンの画面から目を逸らしている。
クロウはメモ帳に『黒スパークレンス事件 2026年9月12日夜間発生』と記した。
ゴウはスマートフォンを読み漁り始めた。
画面の光が彼の顔を照らしている。
その間、リビングの空気は緊張と期待で満たされていた。
やがてモザイクが足元に擦り寄ってきた。
コーンビーフの缶詰を見つけたのだ。
猫が尻尾を立てて、小さく鳴いている。
人間の曖昧さなど、どこ吹く風といった表情だ。
「複雑だから後で改めて」——ゴウはそう言い訳して、スマートフォンを置いた。
結局、誰も『9ブラックスパークレンス』が何を意味するのか、理解しないまま終わった。
モザイクはコーンビーフを食べ終えると、高い棚の上に移動した。
私は静かに呟いた。
「予想通りです」と。
ゴウが家族に頼られたいという想いは、いつも自信の皮をかぶっている。
しかしその皮は紙のように薄く、すぐに破れてしまう。
私は杏仁豆腐を口に入れながら、家族の中で一人、現実を噛み続けていた。

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