男系継承が我が家を支配した夜——夫の浅い知識と、私の冷徹な観察
夜20時30分。
リビングのテレビ画面に「男系継承」が急上昇ワードとして表示されていた。
ゴウがソファから身を起こし、リモコンを握った。
「おい、これだ。
俺に任せろ、この話題は深い」と彼は言い切った。
「男系継承が自然なんだ。
昔からそうなってるんだからな」と続ける。
私は杏仁豆腐を器に盛りながら、その言葉を静かに受け止めていた。
クロウがテーブルから顔を上げた。
「記録しておく」と短く言い、観察ノートに何かを書き始めた。
「継承権の歴史。
怪奇現象のような権力移譲パターン。
インプットした」と呟きながら記録を続ける。
その様子を見たリリが、スマートフォンを掲げた。
「あ、本当にやめて。
この話題、めっちゃバズってますけど。
父が言ってることとツイート全然違う」と素早くツッコんだ。
私の手が杏仁豆腐の器を止まらせた。
ゴウが再びテレビの方へ身を乗り出す。
「いや、そういう話じゃなくて」と言い張り始めた。
私はゆっくり口を開いた。
「そうなると思っていました。
あなたの論理は常に自分有利ですね」と丁寧に毒を注射した。
「男系継承が自然というのは、単なる慣習を必然に置き換えているだけではないかしら」。
ゴウの顔が赤くなった。
「いや、あのだな。
つまりだ。
昔の人たちが」と言葉がもつれ始める。
私は手元の杏仁豆腐をゴウの前に置いた。
彼の口が止まった。
スプーンを握り、杏仁豆腐を食べ始めると、目の光が変わる。
「…美味い。
レイカ、これは最高だ」と機嫌が一転した。
クロウは観察ノートに最後の一行を加えた。
「父の論理崩壊。
母の杏仁豆腐戦法で決着。
記録完了」と書き込んでいる。
モザイクはキッチンの方へ駆け寄り、コーンビーフをねだる鳴き声を上げた。
私はそのうしろ姿を眺めながら思った。
この家の支配構図は、実に明快である。

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