ボンボンドロップシールと家族の三段階合唱——午後3時30分のリビング
午後3時30分、リビングのソファでリリがスマートフォンを掲げた。
「見て、Instagram急上昇。
『ボンボンドロップシール』の開封動画が五百万回再生」
画面に映る映像は、シール付きお菓子をはがす瞬間の快感系動画だった。
リリが再生ボタンを押すと、シールが弾けるような音が部屋に響き渡った。
その瞬間、クロウが自分の部屋から昆虫採集ノートを抱えて現れた。
彼は動画の『シール剥離時の物理現象』に注目したのだ。
「この粘着力の段階的解放。
インプットしておく必要がある」
クロウはノートのページを開き、ペンで走り書きを始めた。
そこへゴウが現れた。
スマートフォンを見つめたまま、自信満々の顔で宣言する。
「俺に任せろ、こういう衝動買いシステムは俺が詳しい。
マーケティング心理学の基本だ。
バンドエイド・マーケティングってやつで、安価な商品に報酬システムを組み込んで、消費者の射幸心を刺激するんだ」
私はゴウの説明に耳を傾けながら、一つの疑問を抱いた。
彼は本当にこの商品を見たことがあるのだろうか。
「その商品、実物を見たことはありますか」私は冷徹に質問した。
ゴウの表情が一瞬凍った。
「そりゃあ、見たことはないけど、仕組みは理解している。
通販の仕掛けなんてこんなもんだ」
そうなると思っていました。
クロウはノートへ記入を続けながら呟いた。
「粘着剤の分子構造がインプットされました。
シール剥離時の加速度も計算しておきます」
一方、リリはスマートフォンから目を離し、ポツリと呟いた。
「親の説明ほど信用ならないものはない」
彼女はツイッターの下書きを開き、何かを入力しようとしていた。
その矢先、黒森モザイクが食器を空にした。
コーンビーフの缶から顔を上げた三毛猫は、静かに我を主張した。
「人間とは不思議な生き物だ。
知識で争う者たちの横で、吾輩は空腹という絶対的真実を前にしている」
私はリリの手からスマートフォンを預かり、キッチンへ向かった。
この家族の学習欲と観察力と衝動性は、本来なら美しい営みなのだろう。
だが今この瞬間、私が求めているのは、それらすべてが静かに停止すること。
そして杏仁豆腐だけが、冷たく、黙って、そこにあること。
その願いが叶う可能性は、限りなくゼロに近い。

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