シーサーの声が聞こえない夜——夫の自信と妻の冷徹な諦念

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シーサーの声が聞こえない人たち——夫の自信と娘の諦念の狭間で

夜20時30分、リビングのテレビ画面には沖縄の建築特集が映っていた。

リリがスマートフォンを掲げた。

「Yahoo!リアルタイム検索で『シーサーの声』が急上昇してるんだけど、なにこれ?」と問いかけた。

クロウが観察記録のように口を開いた。

「シーサーは実は鳴く生き物で、その声は人間には聞こえない周波数だと記録されている。

都市伝説として有名だ」と短く述べた。

夫が身を乗り出してきた。

「いや違う、シーサーは石像だから声なんか出ない。

俺に任せろ、シーサーについての豆知識が豊富だ」と割り込み、沖縄の建築様式について長々と説明し始めた。

歴史的背景、石材の種類、配置の理由。

自信満々の声は止まらない。

私は杏仁豆腐の容器を手にした。

甘さが舌に広がる瞬間、口が動いた。

「そうなると思っていました。

ご主人は物の声が聞こえない体質のようですね」と刺すような言い方で指摘した。

本棚の上からモザイクが呟いた。

「人間とは不思議な生き物だ」と、高く丸くなった身体を揺らさずに呟いた。

リリは両手にスマートフォンを持った。

「本当にやめて。

両親揃って滑ってる」とツッコミを入れ、その場面を記録しようとした。

クロウはメモを取り始めた。

父の言動を記録として『父は音声周波数について無知である』と書き込んだ。

夫は顔を赤くした。

「声じゃなくて歴史的背景の話をしていただけだ」と言い張り、言い訳を重ねた。

その言葉の後ろで、夫が本当は何を伝えたかったのか、私には見えていた。

場は終わった。

後で、私はクロウに呟いた。

「あの程度の空想科学は害はないですが、お父さんの自信はいつもそれに比例しません」と。

モザイクだけが、その言葉を聞いていた。

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