バルセロナの偽造品が家族会議を招かなかった夜——父の虚偽宣言と建築文化への逃亡
2026年9月17日、夜19時30分。
リビングのテレビ画面にはバルセロナのサッカー中継が映っていた。
吾輩は父の膝の上で身を丸めていたが、その瞬間、父は立ち上がり、通販で購入した赤青のユニフォームを大きく広げた。
「見ろ、これが本物のバルセロナのユニフォーム。
先月買ったんだが、限定版だからな」
父は自信満々に言った。
色はあまりに鮮烈で、縫い目の処理が不揃いだった。
吾輩は即座に記録した——虚偽宣言。
2026年9月17日、19時32分。
母は杏仁豆腐のスプーンを止めた。
「この色合い、通販詐欺の典型的な特徴ですね」
短く、淡々とした指摘だ。
吾輩は瞼を半ば開いた。
長女のリリはスマートフォンを取り出した。
指が素早く画面を滑らせ、検索結果を父に突き付けた。
「インスタで回ってくるやつだ。
これ10回以上見た」
画面には全く同じユニフォームが複数表示されていた。
父の顔が僅かに強張った。
だが、父は屈しなかった。
「これは限定版だから、お前らが知らないだけだ。
実はな、バルセロナは建築でも有名だろ。
グッズ文化も奥深いんだよ。
メッシ時代の歴史知識となると、俺が詳しい」
話題は急転換した。
建築文化へ、そしてメッシへ。
長男のクロウは静かにノートを取り出した。
ペンを走らせ、記録する。
「記録しておく。
家父長の虚偽宣言。
2026年9月17日19時32分」
その声は観察記録のように淡白だった。
リリは呟いた。
「本当にやめて」
母は杏仁豆腐を口に運んだ。
「そうなると思っていました」
家族会議は開かれなかった。
黒森家の失敗グッズ記録に、また一つ分類されるだけだった。
吾輩は父の膝から降りた。
ユニフォームはテーブルの隅に置き去りにされている。
人間とは不思議な生き物だ。
自分の失敗を建築文化で正当化するとは。
だが、父の落ち込んだ表情を見つめていると、吾輩は別の計算を始めていた。
明日の朝食に、コーンビーフをねだることにしよう。
父はそれで機嫌を取り戻すだろう。


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