7月25日 モザイクの観察日記
人間とは不思議な生き物だ。本日午後、我が黒森家は大騒ぎに見舞われた。母がどうしても見つからないと言って、家中を探し回っているのである。吾輩は高い棚の上から、この珍劇を観察させていただいた。
消えた者の正体
それは「杏仁豆腐の容器」。昨夜、母が冷蔵庫に入れたはずの、あの黄色い小さな器である。なんでも、今夜のデザートとして楽しみにしていたらしい。だが、本日の朝方、それは跡形もなく消滅していたというわけだ。
父は「俺に任せろ」と言いながら、冷蔵庫の奥底を調べ始めた。だが吾輩から見ると、彼は同じ場所を三度も確認している。人間の探し物能力とは、実に頼りないものだ。
家族の反応という名の混乱
長女は「本当にやめて」と呟きながら、SNSの写真を撮影していた。おそらく、家族の失態を記録に残すつもりであろう。若い世代の習性は理解に苦しむ。
長男は台所の隅で、何かを記録に取っていた。「杏仁豆腐消失事件。7月25日午後2時。冷蔵庫内での物質消失現象。都市伝説の可能性あり」などと、彼のノートに書いているようだ。食べ物の消失を、まるで怪奇現象のように分析する姿勢は、なかなか興味深い。
母は「そうなると思っていました」と、落ち着いた声で呟いた。その表情に浮かぶ微かな笑みは、すべてを知っているかのようだった。
真犯人は誰か
吾輩は知っている。昨夜、父は深夜に冷蔵庫を開け、「ちょっと一口だけ」と言いながら、その黄色い容器に手を伸ばしたのを見た。そして本日の早朝、父は空になった容器を、こっそりゴミ箱に隠したのである。
だが、父はいま「冷蔵庫の温度設定がおかしいのかもな。蒸発したんじゃないか」などと、寝言のような言い訳を口にしている。人間とは本当に不思議だ。自分の行為を忘れてしまう生き物とは。
午後3時の静寂
母は台所で何か作り始めた。その匂いは、新しい杏仁豆腐の香りだ。父は「そっか、また買ってくればいいんだ。俺に任せろ」と、いつもの調子で言い張っている。吾輩は、彼がまた同じ過ちを繰り返すであろうことを、すでに予測している。
吾輩は日向ぼっこに戻ることにした。この家の人間たちの営みを観察するのは、実に興味深い。彼らは気づかぬうちに、同じパターンを何度も繰り返す。それもまた、人間という生き物の本質なのだろう。
本日の記録:杏仁豆腐消失事件は解決せず。犯人は自らの記憶喪失に守られている。人間社会の謎は深い。

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