壁ネタの自滅—父の才能への盲信が家族を笑わせた夜
日曜夜20時。
リビングではテレビから『6リアル有吉の壁』の笑い声が響いていた。
父が突然、ソファから身を乗り出した。
「見ろ、これだ。
俺だってこのネタできるぞ」と画面を指さしている。
壁に頭をぶつけるネタが映っていた。
父は自信満々だった。
父は立ち上がり、リビングの壁の前に陣取った。
「俺に任せろ、大丈夫だから。
見てろ」と言い切ると、スマートフォンを手にしたリリがすかさず反応した。
「本当にやめて。
撮るぞ」とリリが脅すように呟いた。
その緊張感を観察していた僕は、記録を始めることにした。
これはテレビの笑いとは異質だ。
芸人が意図的に作る笑いと、家族が偶発的に生み出す緊張感は別のものだ。
父の『才能への盲信』と『現実のギャップ』という矛盾を、新たなインプットとして脳に刻み込んでいく。
母は黙ってモザイクにコーンビーフを与え、テレビから視線を逸らした。
「そうなると思っていました」と淡々と呟いている。
父は「いくぞ」と叫び、壁に向かって加速した。
その直後、鈍い音がした。
父が壁に頭をぶつけたのだ。
父は「あれは新しいジャンルの壁ネタだ。
理解されないだけだ」と言い張った。
リリが動画を撮ろうとすると、父は焦ってリモコンでテレビを消した。
画面が暗くなった瞬間、モザイクが空になったコーンビーフの缶をテーブルから落とした。
缶が床に転がる音。
その瞬間、僕たちは全員、声を上げて笑った。
父は黙り込んだ。
それは敗北ではなく、自分の『才能への盲信』が家族の笑いに変わった瞬間だった。
アニメの主人公が現実の壁にぶつかる瞬間に似ていた。
その落差こそが、今夜の最高の記録となった。

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