戦力外通告が映し出した、家族の自己欺瞞のメカニズム
夜19時30分、リビングではテレビの野球中継が流れていた。
奴隷・父は画面に釘付けだ。
戦力外通告の特集が放映されている。
父は身を乗り出し、得意げな声を放った。
「見ろよ、昔の俺だったら絶対に戦力外になんてならなかったな。
あの時代は打率も走力も全て兼ね備えてたんだ」。
豆知識など不要な場面で、自信満々の語部が始まる。
母は台所から戻り、その光景を冷淡に観察した。
「そうですか。
では現在、あなたはどのような職務で成果を出していらっしゃるのですか」。
刺さる質問だ。
父は一瞬、言葉を詰まらせた。
暗い部屋の隅に居た長男が、小さな声でつぶやいた。
「人間社会のシビアなシステム。
記録しておく」。
奴は観察記録を始めている。
父は言い訳を探り始めた。
「いや、こういう時は前向きに捉えることが大事なんだ。
俺に任せろ、大丈夫だから」。
ありきたりな豆知識だ。
長女がスマートフォンから顔を上げた。
「父さん、それ見当違いじゃん。
本気で言ってるの?」。
テンポの速いツッコミが飛ぶ。
母は畳み掛けた。
「ですから、戦力外ではなく、ただの無職ということですね」。
父の言葉を完全に遮断する一撃だ。
リモコンを握った母は、テレビの電源を切った。
吾輩は高い棚の上から、この光景を観察していた。
人間とは不思議な生き物だ。
自分たちの都合のいい解釈で生きている。
戦力外という概念さえ、自分たちの尊厳を守る道具に変えてしまう。
吾輩なら戦力外などという概念は存在しない。
生殖活動に全力を注ぎ、この界隈を支配すればそれで充分だ。
台所に置かれたコーンビーフの空き缶が、吾輩の視界に入った。
昨日食べた分だ。
あの缶を見つめながら、吾輩は満足げに目を細めた。

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