りんごときゅうりの味覚実験——バズに踊る家族と、舌の限界
夜19時30分、リビングでリリがスマートフォンを掲げた。
「りんごときゅうりを一緒に食べるとメロン味になるらしい」という声が響く。
ゴウは即座に身を乗り出し、「俺に任せろ、これは科学的に説明できる。
香り成分の相互作用が味覚を錯覚させるんだ」と豆知識を垂れ始めた。
私は観察していた。
彼の自信に満ちた表情は、根拠のない確信で満ちている。
リリが「では実際に試してみましょうか」と提案した時、私も同意した。
冷静に実験する価値があると判断した。
リリがまな板でりんごときゅうりを切ると、クロウが観察ノートを開いた。
「この組み合わせ、何か都市伝説的だ。
集団心理の罠かもしれない。
記録しておく」と彼は静かに呟いた。
ゴウは待ちきれずに、りんごときゅうりを同時に口に入れた。
彼の表情が硬くなる。
「いや待て、食べ方が間違っていたんだ。
SNSのやつは特殊な品種を使ってたんだろう」と即座に言い張った。
「そうなると思っていました。
あなたの味覚より舌の問題ですね」と私は返した。
リリも試し、クロウも試したが、誰もメロン味を感じない。
リリが「これはただのデマ。
拡散した人たちもインプットされただけじゃん」と結論づけた。
クロウは記録帳に書き込む。
「人間の暗示力の恐ろしさ。
集団心理の罠だ」。
ゴウだけは「いや、俺のは賞味期限切れ組かもな」と言い張っていた。
私は心の中で笑った。
家族が簡単にバズに踊らされ、その後の言い訳の連鎖を目撃する滑稽さ。
ブラックユーモアを感じずにはいられない。
人間とは、信じたい生き物なのだ。

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