『lol』という記号が家族の序列を揺らした夜
夜19時30分、リビングに吾輩は横たわっていた。
クロウが手にしたスマートフォンの画面には、都市伝説サイトの文字が並んでいる。
『lol』という略語が頻出していることに、あの小僧は首をかしげた。
「この『lol』ってなんだ」とクロウが呟く。
父は即座に椅子から立ち上がり、「俺に任せろ、これは昔のインターネット用語だ」と豆知識の垂れ流しを開始した。
吾輩は観察を続ける。
クロウはスマートフォンの画面をノートパソコンに映す。
『lol』の意味を調査し始めたその時、父は「『Lots of Love』の略で愛情表現だ、大丈夫だから」と言い張った。
母はソファから身を起こし、冷淡な声を放つ。
「そうなると思っていました。
実際にはお調べになった方がよろしいのでは」。
画面には『Laugh Out Loud』と表示されている。
父の説明は根底から否定された。
長女リリは、スマートフォンを手にしてSNS上での実例を見せ始めた。
「父の世代の造語じゃん。
今はこっちが主流だし」。
父は「複数の意味があるのは当然だ」と論破を試みるが、もはや誰も聞いていない。
その瞬間、吾輩はキーボードの上に乗った。
肉球でキーを踏む。
無意味な文字列が画面に現れる。
クロウはそれを見つめ、記録帳に書き込んだ。
「暗号化されたメッセージの可能性。
記録しておく」。
人間とは不思議な生き物だ。
たった四文字の記号が家族の秩序を揺らす。
父の自信は砂上の楼閣であり、母の予測は常に的中する。
この家では、吾輩の観察こそが最も正確である。
コーンビーフの缶を開けてくれる彼らを見つめながら、吾輩は静かに頷いた。

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